| |
 |
| 林 雅子(審査委員長) |
 |
今年は応募が倍増と聞いて、テーマへの興味のゆえかと、期待は大きかった。課題の要求は”3世帯”ではなく、おそらくは1世帯の中での”3世代”をつなぐキッチンのはずである。ところが、おのおの独立したキッチン3つとそれをつなぐ共有スペース、もしくはひとつの作業台に3つの流しやコンロを区別する工夫、エレベーターで上昇移動して3フロアをつなぐキッチンなど迷案続出に驚かされた。
応募者の60%は学生で、設計事務所などのいわゆるプロが36%の構成と聞くが、核家族化が進み、ファミリーレストランやコンビニ、個食化、電子レンジがあたりまえの若者が多かったのかもしれない。何を、どう調理して食べるのか、キッチンが住まいのあり方、家族のありようにかかわる問題の大きさ、このコンペの意味の深さを改めて思い知った次第である。応募者全体を社会学的な観点から分析すると、興味ある研究となるに違いない。
金賞・神前案は、今回際だって特徴的な2大傾向-円形と動き-とを併せ持った作品である。しかし、審査員の共感を呼んだのは、たぶん本人の意図とは異なり、変化していく人生の各フェーズに対応できる伸縮性にあった。円弧の外側にも”場”をつくり出す形態と動きは面白いが、かなりのスペースを要し、その結果、庭へとなったのであろうが、排水の行方への配慮がないのが気になる。その点銀賞・藤井案は、固定戸棚と、この広さ内での移動にどれほどの意味があるかは別としても、床下にプランピングの備えがあり、日時計風屋根など、建築全体の発想の鮮やかさで最後に逆転をみた作品である。銀賞・鷲尾案の機器のアームによる水平・垂直方向への移動は、アイデァに目新しさはないのだから、さらにフレキシブルパイプの配管や調理器具・食器の移動への提案がほしかった。
銀賞・岡田+大隈案の、座式の食事スペースを両側から挟む立式台所は、オリジナリティのある、この課題にふさわしいものである。高床を利用した掘りごたつ食卓で、台の移動を不要にしたらどうか。それにしても、もう少しきちんとした図面がほしかった。銅賞・河原案は、作業台と食卓の高さ、トップライトを成立させるための平屋建てが気になる。銅賞・菊池案の戸外への着眼点は面白い。それならなぜ、外部に炉を設けなかったのか。銅賞・丸山案は家族像を含め、現代日本の住空間への提案として現実味がある。壁を省いて、入り口から台所、そして食堂へ続けると土間がいっそう生きる。居間回りも壁で空間が分断されていて残念である。 |
| |
| 曽根 眞佐子(審 委 員) |
 |
キッチン・台所=食べる営みの場。台所空間は道具と人とが織りなすシステムを含み込む。
明治以来、台所をよくしようとする努力は、家庭電化・電子化・工業化による能率・省力が中心であった。道具や機器・装備にあらゆる可能性が出そろったところで、台所とはなにをするべきところか、何をなし得るか、が改めて問い直されている。「三世代家族をつなぐキッチン」は人の暮らし方から、食べる営みの場のさらなる可能性を探る、時機に合ったテーマだといえよう。 誰もがかかわる日常性の高い生活の場のゆえか、240点にもおよぶ作品は、それぞれに思い入れが深く、切り口も幅広く、表現も詞やイラスト・マンガなどを駆使した楽しいものが多かった。
鍵は3世代家族のつなぎ方。真ん中にビッグテーブルを置き、周辺に3つのキッチンを配した離合集散の空間構成型、道具・設備レベルで暮らしの流れに対応する変化自在型、炉端など江戸後期に定型化された日本型台所の現象を再浮上させたノスタルジー型、菜園や水路といった自然取り込み型、そして哲学的な型などいくつかの類型が見て取れた。
人の暮らしは1日、1週、1年、一生、1代、日常の時と非日常の時・・・それぞれに空間の質も、用いる道具も変化する。金賞・神前案「PROPRIO」はイタリア語で”好きなように”を意味し、暮らしの中の多重な「ある時は」の”時”の変化の可能性をオーガニックな形態によって導き出している。このコンペは総体に課題に対して、明るく楽天的な視点でとらえられていたように思う。賑やかな団欒をイメージした3世代家族のつながりも時を経ればたちまちひとり暮らしとなる現実も見逃してはならない。自分自身の「暮らしをつぶさに見る」ところから研究すると、いっそう深みのある提案につながるのではないかと思う。 |
| |
| 石橋 利彦(審 委 員) |
 |
「三世代家族をつなぐキッチン」というテーマに対し、単にキッチンの設計にとどまらずキッチンを通してどのように3世代をつなぐかという提案に期待した。今回の応募案ではつなげるということを家族の団欒に、さらに輪にたとえ、円弧に置き換えて表現しようとしたキッチン、世代間の身体的特徴に合わせて平面的、あるいは断片的に可動するキッチンが多く見られた。そうした方向性の中で、リアリティを失わず、家族と住空間に対して影響を与えるほどの存在になり得たキッチンということを基準に選択した。キッチンという高機能で高密度な空間が対象であるために具体的に機器の選択がなされているものもあった。それが結果としてリアリティに結びつかず、自らの提案を萎縮させてしまう場合もある。そういった意味合いではコンセプトとリアリティの均衡の重要さを示すコンペでもあった。
金賞・神前案は、円弧を用いて可動するキッチンの中で幾何学的になりがちな印象を有機的な形態と結びつけ、家族間の多様性に巧みに対応している。キッチンが領域を拡大していくことで、周辺との境界にも新たな空間が想像できる。
銀賞・鷲尾案は、天井に格納されたキッチンが吊り下がり、時間軸と共に、増殖、移転、消去を繰り返す軽快なシステムである。銀賞・藤井案は、日時計の形態で構成された建築の中をキッチンが時計回りに自走し、時間の変化と場の変化を空間に与えている。銅賞・岡田+大隈案は、動的な案の多かった中で静的なイメージを受けたキッチンである。しかしながら、その物語によるシチュエーションの展開はキッチンの中に次々と新しい場を生み出している。
マーベルデザインコンペティションの当初から、応募作品の試作は目標のひとつであったが、今回の応募案の中には試作の可能性も感じられた。 |
| |
| ▲戻る |
|
 |